現場DX推進にむけて(第4回)PLM/MES(MOM)システム検討の前に ~業務上の部門間連携, できていますか?~

前回のコラムはこちら プロジェクト本番でつまずかないために ~体験ファーストによるリスク低減~ |
『製品ライフサイクル管理(PLM)や製造実行システム(MES/MOM)システムの導入を通じて、部門間連携を推進したい―』
このようなモチベーションでシステム導入を推進するも、
『むしろ業務量が増え、現場が疲弊している』『システム導入前のメール/口頭ベースのコミュニケーションに戻すことになった』
といった失敗事例を数多く伺います。こういった問題は、システム導入以前に、業務上の部門間連携に関して見直すことで避けることが可能です。
今回のコラムでは、業務上の部門間連携を実現する、ECO(Engineering Change Order:設計変更指示)に関して解説します。
世の中にある各種システムの標準機能を比較する前に、今回ご紹介するECOをベースにした業務例をたたき台に、部門間連携実現後の業務イメージを持っていただければ幸いです。
- 目次 -
◆日本での製品設計力、製品設計のリードタイムに関する現状
ECOの説明に入る前に、日本での製品設計力、製品設計のリードタイムに関する現状を見てみます。
右の図1、図2はそれぞれ、2019年に実施されたアンケートの結果で、製品設計力の5年前に比べての変化と、製品設計のリードタイムの5年前に比べての変化を示しています。
製品設計力・製品設計のリードタイム共に、5年前に比べて向上している・短くなっていると回答している回答者が4割程度いる一方で、半数以上が、『あまり変化はない』と回答していることが分かります。
引用:製造業の企業変革力を強化するデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進(経済産業省)
また、製品設計のリードタイム短縮を図るための取り組みとして重視しているものとして以下が挙げられています。
・生産技術、製造、調達といった他部門との連携促進 (53.4%)
・標準化, モジュール化の推進(38.2%)
・“3D CAD/CAEの導入(37.8%)
引用:製造業の企業変革力を強化するデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進(経済産業省)
このように企業は、リードタイム短縮のために部門間の連携強化やプロセスの効率化を目指していますが、全体としては大きな改善設計が見られていないのが現状です。
◆『図面/CAD/E-BOM』の整理推進時の落とし穴
こういった状況下で、製造業の各企業に属するDX推進者の方々とディスカッションをさせていただくと、『PLM/MES(MOM)ツールの導入検討を行っている』といった企業が多く、
一歩踏み込んだ検討をされている企業であれば、『図面/CAD/E-BOM(部品表)』の整理を推進している企業もあります。
しかし、実際に図面/CAD/E-BOMの整理を進め、PLMやMES(MOM)ツールの導入を推進しても、冒頭で述べた通り、『むしろ業務量が増え、現場が疲弊している』『システム導入前のメール/頭ベースのコミュニケーションに戻すことになった』といった失敗事例を数多く伺います。何が問題であるのかを深掘りすると、下記のようなケースが散見されます。
【Case1】
・図面など、一つの設計変更の履歴はシステム上に登録されるが、その影響範囲の判断や、他の情報の変更業務が属人化・もしくは誰も管理していない状態である
【Case2】
・作業手順書など、変更対象のものをいつから変更してよいのかの判断が現場任せ、もしくは誰も管理していない状態であり、システム上でデータが登録されていても、それが実際に現場の活動に反映されていないことがある
【Case3】
・一見無駄に思えるダブルチェックや過剰な帳票が運用されており、システム化の際にその業務を継続して行うものとしてシステム上に設定したが、その業務を始めた経緯が曖昧であるため、無駄ではないかと思いつつも、仕方なくその業務を継続している
DX化の推進はともかく多くの製造業は、設計変更管理においてこれらのケースのように、システムツールの導入だけでは解決できない組織的・プロセス的な問題が存在します。
このような問題がDX化推進の効果を大幅に減少させており、結果として業務量の増加、現場の稼働増大を招いています。
◆ECOの基本構造
このような問題は、本コラムで解説する、ECOを導入することで、回避が可能です。ECOは、下記の図のように、以下の3段階で構成されます。
- ECR(Engineering Change Request:設計変更要求)
- ECO(Engineering Change Order:設計変更指示)
- ECN(Engineering Change Notice:設計変更通知)
ここから、それぞれの3つの各プロセスの役割、実施手順、注意点について詳しく説明していきます。
■ECR(設計変更要求)のプロセス
まず、ECR(設計変更要求)では、製品の設計や製造工程に関する”変更”に関して、『変更しても良いですか』と要求する業務です。
例えば品質改善の為、板金の厚みを変える・部品終売やコスト削減の為、代替部品を採用する・不具合への是正措置対応や、改善提案を採用するため、作業手順書を変えるなど、何かしらの変更を行いたい意思表示を設計/品証/購買/製造などの各部門の担当者が起票します。
これに対し、ECRに対する判定を行う責任者が、承認/否認を判定することにより、次の工程であるECOに進んでよいかどうかを判断します。この責任者は、設計部門/製造部門/品証部門などの有識者が担当しますが、医療機器や医薬品など、他の業界に比べて高い品質管理基準を求められる業界では、最終製品の品質に重大な影響を及ぼすかどうかといった観点で、品質保証部門の部門長が監督しているケースが多く存在します。
仮にECRが否認された場合は、起票した方法とは別の方法による変更要求を新たに起票することになります。
■ECO(設計変更指示) のプロセス
さて、先ほど述べたECRが承認されると、次はECO(設計変更指示)という工程に移ります。
ここでは、ECRによって承認された変更を実施するにあたり、『その変更の影響範囲及び影響の大きさを判断するための業務を指示する』という業務を行います。
例えば代替部品の採用であれば、購買部門のBOMリスト(製品を構成するすべての部品や材料を一覧にしたリスト)だけで良いのか、受け入れ検査を行う外部業者の監督部門を含むのかといった”関連部署の特定”を行う業務を指示します。また作業手順書の更新や現場システムのレシピ変更を行う場合は、変更後の作業の検証(Verification)や妥当性確認(Validation)の指示・それに伴う教育訓練、システムのマスタ更新などを指示します。
変更が軽微である場合は、詳細な指示内容の作成や検証結果の判定はECRの承認者が行いますが、複雑な変更を伴う場合、ECRの承認者が製造技術/IT/R&Dなどの各部門の部課長を指名し、その部課長がECOの詳細な内容を起票し、担当者に指示を行うといった手法を取るケースもあります。
ECOによって指示された変更業務を行った結果、”変更作業報告”や、”作業妥当性判定”といった業務を行い、その結果を文書やデータとして記録することもあります。
またこれらの結果によっては、ECOの結果として変更を否認する場合もあります。
仮にECOが否認された場合は、ECRによって否認された場合と同様、ECRで起票した方法とは別の方法による変更を新たにECRとして起票することになります。
■ECN(設計変更通知) のプロセス
ECOが承認されると、最後はECN(設計変更通知)という工程に移ります。
この工程では、ECRによって起票され、ECOによって検証し、変更作業を終えた変更内容に関して、『この時点から変更する』といった内容を関係各所に通知します。例えば製品ラベルに関する変更であれば、顧客に対し、『〇〇月出荷予定のLOT〇〇から、製品ラベルが変更されます』といった通知を行います。
また現場の作業内容に関する変更であれば、『〇〇日開始予定のLOT〇〇から、新作業手順書××を利用してください』といった通知を行います。システムの変更であれば、システムのマスタ管理機能に対し、『〇月●日△時以降、変更後のマスタを有効化する』といった設定を行うことになります。
この際、ECNとしての通知内容には、必要に応じて、ECRで扱った『変更要求をする理由』、ECOで扱った『影響範囲、影響の大きさの判断結果』などを添付したり、最低限ECRやECOの番号を付記したりします。
◆ECOの業務による対策法
これまで述べてきた、ECOの業務により、コラム前段にて述べた各種問題に対し、下記のような対策を取ることが可能です。
【Case1】
・図面など、一つの設計変更の履歴はシステム上に登録されるが、その影響範囲の判断や、他の情報の変更業務が属人化・もしくは誰も管理していない状態である
⇒ECR以後のECOの業務内で、影響範囲を特定し、変更すべき個所に関して責任者が指示を行うため、変更業務の属人化や管理されていない状態を防ぐことができる。
【Case2】
・作業手順書など、変更対象のものをいつから変更してよいのかの判断が現場任せ、もしくは誰も管理していない状態であり、システム上でデータが登録されていても、それが実際に現場の活動に反映されていないことがある
⇒ECO後のECNとして明確に変更実施タイミングを指示することにより、作業手順書等の変更を現場判断でしなくても良くなる。また、ECNとして部門間をまたいだ通知を行うことにより、システム上の変更と、現場が把握している業務の変更タイミングに整合性を取ることができる。
【Case3】
・一見無駄に思えるダブルチェックや過剰な帳票が運用されており、システム化の際にその業務を継続して行うものとしてシステム上に設定したが、その業務を始めた経緯が曖昧であるため、無駄ではないかと思いつつも、仕方なくその業務を継続している
⇒ECNに付記する形式で、ECRに記載される変更を行うに至った理由が記録として残るため、何のための業務であったかがわかり、その業務を廃止しても良いかどうかの判断の助けになる。また、作業手順書の変更時のECO番号が分かることにより、その作業のVerification/Validation結果や変更作業報告を追跡することができるため、監査対応における対応がスムーズになる。
上記の通り、ECOの業務をルール化して取り入れることにより、業務レベルで部門間の連携を実現することが可能です。また、ECR/ECO/ECN番号を紐づけることで、ECOに関わる業務の全てをデジタル化/システム化することなく、トレーサビリティ要求に対する対応を実現することも可能です。
◆まとめ
本コラムにて、部門間連携を推進するにあたり、システム化の検討前に業務として導入可能なECO(設計変更指示)に関して説明いたしました。
各部門の業務や情報のシステム化の検討と合わせ、今回ご紹介したECOをベースにした業務例をたたき台に、部門間連携実現後の業務イメージの検討を推進していただければ幸いです。
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