RTKサービスとは?農業・建設・自治体で進む高精度測位の活用法

近年、農業・建設・自治体の現場で「RTKサービス」という言葉を耳にする機会が増えてきました。RTK(Real-Time Kinematic)は、位置情報をセンチメートル単位の高精度で取得できる測位技術であり、この技術を活用したサービスが各分野で導入され始めています。
その背景にある課題は、深刻化する人手不足や、災害対応の高度化、老朽化するインフラへの対応といった社会的な問題です。RTKサービスは、これらの課題に対して「現場作業の精度向上と業務効率化」を実現する有力なソリューションとして注目されています。
本記事では、RTK技術を活用したサービスの仕組みと、農業・建設分野や自治体による地域サービスにおける具体的な活用事例をご紹介します。
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RTKサービスの基本と仕組み
RTKとは、衛星測位システム(GNSS)を活用し、リアルタイムでセンチメートル単位の高精度な位置情報を取得できる測位技術です。基準局と移動局の2つの受信機に加え、中継サーバを通じて衛星データをやり取りし、誤差を補正することで、従来のGPSよりも格段に精度の高い測位が可能です。
RTKサービスではリアルタイムで正確な位置情報が得られるため、現場の作業効率が大きく向上します。そのため、土木や建設、農業といったさまざまな分野で幅広く活用されています。
RTKの仕組みについて詳しく知りたい方はコチラをご覧ください。 |
RTK活用したサービスの主な事例5選|農業・建設・自治体での導入が進む理由
RTK技術は、農業・建設・自治体など幅広い分野で注目されています。人手不足や高齢化、作業の効率化といった社会課題の解決策として導入が進められており、その活用事例は年々増加しています。 ここでは、以下5つの導入事例を通じて、RTKサービスの導入が進む理由をご紹介します。
・農業分野(スマート農機、自動操舵、圃場管理)
・建設分野(ICT建機、測量、施工管理)
・災害対応(通行止め情報、避難誘導、物資搬送)
・インフラ管理(水門、ため池、上下水道の位置情報管理)
・公共交通(除雪車、コミュニティバスの運行管理)
農業分野(スマート農機、自動操舵、圃場管理)
農業分野では、RTKを活用したスマート農業の取り組みが広がっています。まずは、弊社 西部電気工業株式会社が支援させていただいた、福岡県筑前町の事例をご紹介します。
人口約3万人の同町は、米・麦・大豆を中心とした土地利用型農業を営んでいますが、少子高齢化に伴う就業者の減少という課題を抱えていました。
こうした状況の中、若手農家から「町が主体となってRTK基準局を設置してほしい」との要望が寄せられたことを契機に、2024年夏頃から本格的に導入検討を開始。2025年2月に町役場庁舎の屋上にRTK基準局を設置しました。
既にRTK対応の農機を所有している多くの農家が役場のRTK基準局を利用し始めています。また、未導入の農家においても役場でRTK基準局を整備したことを契機に、従来のトラクターに後付けする直進アシストを導入する動きや、最新型トラクターへの買い替えによるスマート農業の推進も見られています。さらに、RTK対応の草刈機導入を検討する声や、ドローン配送など、新たな利活用の可能性も広がっています。
出典:【筑前町】自治体主導のRTK導入事例:高精度スマート農業で地域活性化とコスト削減を実現
建設分野(ICT建機、測量、施工管理)
建設分野においても、RTKを活用した施工の自動化・効率化が進んでいます。
例えば、建設機械を扱う大手メーカーでは、2018年のCETEC JAPANにて無人化施工のデモを実施。無人の油圧ショベルが土砂を掘削し、自律走行型のダンプカーが土砂を回収・運搬するという一連の作業を自動で行う技術が披露されました。さらに、遠隔地から5G回線を通じてICTブルドーザーを操作するなど、次世代の建設現場の姿を示す内容となっています。(※弊社の事例ではございません)
建設分野でRTKサービスを活用することで、ICT建機の自動操舵精度が向上し、測量や施工管理業務の効率化が進んでいます。また、RTKを利用したICT建機は建設業界における人手不足の課題解決にも一役買っています。
出典:建設機械のGNSSを利用した自動化に関する事例紹介|日本ロボット学会誌誌
災害対応(通行止め情報、避難誘導、物資搬送)
RTKの測位技術は、災害発生時の救助・復旧活動においても大きな力を発揮します。高精度な位置情報により、ハザードマップと連携することで通行止めや避難所の混雑状況、被災エリアの詳細情報をリアルタイムで配信できるため、迅速かつ的確な避難誘導が可能になります。
実際に2004年、度重なる台風被害を受けた四国では、ネットワーク型RTKを活用した農地の被災測量が実施され、わずか1週間で700〜800点の測量を完了。従来のTS(トータルステーション)では4〜5倍の時間を要していたものを、RTKによって災害対応のスピードと正確性を大きく向上させた事例です。(※弊社の事例ではございません)
また、RTKは支援物資の搬送ルートの最適化にも活用でき、災害時の物流支援にも寄与します。特に、浸水や土砂崩れといった広範囲に及ぶ被害の際には、RTKとドローンを組み合わせることで地形データを効率よく収集し、ハザードマップの精度向上にもつながります。
出典:災害復旧作業でのネットワーク型RTK活用事例 | ご利用事例 | 株式会社ジェノバ
インフラ管理(水門、ため池、上下水道の位置情報管理)
RTK測位は、上下水道や水門、ため池といったインフラ設備の管理にも有効です。
ある自治体では、老朽化した下水道管の維持管理を目的にマンホールの位置情報をVRS-RTKで再測定。従来のオフセット法と比べ、精度は±25cmからセンチメートル級へと大幅に向上し、GIS上での活用が可能となりました。これにより、測量データの即時デジタル化が実現し、従来の現場測量から図面補正・入力までにかかっていた手間と人件費が約3分の1に削減されたと報告されています。(※弊社の事例ではございません)
正確な位置情報とメンテナンス履歴を一元管理することで、点検・修繕の作業効率が向上し、災害時の迅速な対応にもつながります。特に、RTKとIoTを組み合わせた水門の遠隔自動開閉やため池の水位監視システムは、豪雨による人的被害の低減に貢献しています。
出典:都市インフラ点検でRTK活用:下水道・道路維持管理への応用 | Lefixea LRTK
公共交通(除雪車、コミュニティバスの運行管理)
RTK測位は、公共交通における車両の運行管理にも活用が期待される技術です。具体的には、コミュニティバスの走行ルートや停車時間をセンチメートル精度で正確に記録することで、実際の運行実績を可視化できます。これにより、利用者の需要に即したダイヤ改正やルート見直しの根拠データとして活用でき、より効率的な運行計画の立案が可能となります。
また、リアルタイムでバスの現在地を公開することで、住民の待ち時間のストレスを軽減できるなど、利便性の向上が可能です。
さらに、除雪車やごみ収集車などの公共車両についても、RTKによって走行ルートや作業地点を正確に把握できるため、作業の効率化と安全性向上が期待されます。特に除雪作業では、道路幅や道路の白線をデジタルマッピングし、そのマッピングデータをトレースする際にRTKが用いられているため、位置精度が高く、脱輪や転落などの事故リスクの低減にもつながります。
まとめ:RTKサービスは地域の未来を支えるインフラ
RTKサービスは、単なる位置情報技術にとどまらず、農業や建設、災害対応、インフラ管理など、地域社会の重要な現場における課題解決を支える基盤技術です。人手不足や高齢化、災害リスクといった社会課題に対して、現場の効率化と安全性向上を実現する手段として注目されています。
RTKは使い方次第でさらに多彩な分野での応用も可能です。自動操舵にとどまらず、測位データをGISやIoTと組み合わせることで、コミュニティバスや清掃車といった車両の運行管理、上下水道などのインフラ設備のメンテナンス効率化など、都市運営のDXにも大きく貢献するでしょう。
今後、RTKの普及が進むことで、地域全体の生産性が向上し、より持続可能な社会づくりへの貢献が期待されます。
西部電気工業株式会社では、各分野の現場ニーズに応じたRTKサービスの導入支援を行っております。各現場や導入目的に応じて最適なRTK導入プランをご提案し、地域の課題解決と未来のインフラづくりへの第一歩となるよう、将来を見据えた持続可能な運用体制の構築をサポートいたします。
「自分たちの現場でもRTKサービスを活用できるのか知りたい」
「導入にかかる費用や支援制度について相談したい」
など、少しでも気になることがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。
更新日:2025.07.23