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筑前町の想い『農業がある町だからこそ人が増える町』を実現するスマート農業推進の一環として、農家の方々が無料でRTKを利用できる基準局を設置しました

福岡県筑前町様

旧夜須町と旧三輪町の合併によって誕生した人口約3万人のコンパクトな筑前町の農業は、土地利用型農業を主体に米・麦・大豆を生産しています。
しかし、昨今の少子高齢化などによって農業就業人口は年々減少。筑前町においても同様で、IT技術を活用しながら労働力を最適化し、生産性向上を目指すスマート農業の導入が不可避な状況でした。
今回、そのスマート農業の取り組みの一環として、西部電気工業の支援のもとRTK基準局を導入。RTK基準局の導入背景や効果などについて町長 田頭 喜久己氏、農林商工課 農林振興係 係長 今里氏、水田農業推進協議会 事務局 和合氏、橋本氏、そして若手農家の井上氏、焼山氏にお話しを伺いました。

  • 導入前の課題・少子高齢化により農業従事者が減少し、担い手不足が深刻化していた。
    ・広大な農地を維持するには効率化が不可欠だった。
    ・個人でのRTK導入は機器費用や運用負担が大きく、普及が進みにくかった。
    ・GPSによる自動操舵では誤差が大きく、精密な作業には不向きだった。
  • 導入理由・高精度な位置情報を活用し、農業機械の自動操舵による省力化を図るため。
    ・若手農家からの「町主体でのRTK基準局整備」の強い要望に応えるため。
    ・農業の魅力を高め、「農業がある町だからこそ人が増える町」という理念を実現するため。
    ・スマート農業のインフラを整備し、地域全体での取り組みを推進するため。
  • 特筆する効果・RTK基準局の導入により、誤差5cm以下の高精度な自動操舵が可能となった。
    ・農家の作業負担が軽減され、新規就農者でも機械操作が容易になった。
    ・草刈りやため池の監視、防災、ドローン配送など、農業以外の分野でもRTK技術の活用が期待されている。
    ・無料で利用できる環境が整い、町内農家の参加意欲と評価が高まっている。
    ・スマート農業の普及により、地域の持続可能な農業モデル構築が進んでいる。
福岡県筑前町_ロゴ

福岡県筑前町

役場所在地:〒838-0298 福岡県朝倉郡筑前町篠隈373番地
■発足   :2005年3月
■総人口  :30,808人(2025年2月末現在)
■面積約  :67平方キロメートル

RTKの仕組みについて詳しく知りたい方はコチラをご覧ください。
関連コラム:高精度測位技術『RTK』の仕組みを図解で徹底解説!GPS・GNSSとの違いとは?

目次

|田舎暮らしと都会的な利便性・快適性を併せ持つ田園都市


●筑前町の概要をお聞かせいただけますか。

筑前町は福岡県筑紫平野の北部に位置する人口約3万人のコンパクトな町です。福岡都市圏や久留米広域圏に近接しており、公共交通機関を利用して1時間以内で移動できる恵まれた立地条件を背景に、人口が増加し続けている状況。面積は約67平方キロメートルで、うち約3分の1が農地、約3分の1が林野、残りが宅地などになります。

農業は広大な土地を活用する土地利用型農業が主体で、主に米・麦・大豆を生産。夏から秋にかけては米・大豆を並行し、冬から春にかけては麦を作付けする二毛作農業が盛んです。米・麦・大豆を推進するには、機械化が欠かせないということで、トラクター、コンバイン等の大型機械に加え、ドローン等スマート農業機械も導入しています。

「農業がある町だからこそ人が増える町」が筑前町の想いで、かならずしも農業に携わらなくても「農業に触れながら暮らす」ことが、より人間らしいのではないかと考えています。そんな筑前町の田園都市構想をスローガンにしたのが「緑あふれる豊かで便利な とかいなか」。田園風景が残る健康的な田舎暮らしと、都会的な利便性と快適性を併せ持つ、都会に近い田舎、そんな筑前町の発展に寄与していければ幸いです。

筑前町長 田頭 喜久己氏

町長 田頭 喜久己氏 


|スマート農業に注力する若手農家の要望を受けてRTK基準局導入を決意


●筑前町でRTK基準局を設置した背景をお聞かせいただけますか。

まず、少子高齢化などによる人手不足の波は筑前町にも押し寄せてきています。農業の就業人口は年々減少しており、現在は町の全人口比率で1割を切っている状況。しかし、農地の面積は大きく変わっていないため、今後はいかに効率化を図って農業を推進していくかが鍵となります。そこで、取り組む必要があると考えていたのは、IT技術を活用しながら労働力を最適化し、農作物の質・量の向上を目指すスマート農業です。今回、西部電気工業に導入していただいたRTK基準局は、そのスマート農業の取り組みの一環となります。

●以前からRTKには注目されていたのでしょうか。

行政よりも若手農家の方々が先にRTKを導入していました。GPSよりも高い精度の位置情報をRTKから取得することで、トラクターなどの農業機械やドローンをベテラン並みの正確さで自動操舵できるため、数名の若手農家は個々にRTK移動基地局を設置するなどして活用していたようです。

RTKの存在は、筑前町の職員と若手農家との勉強会や交流会を通じて知りました。RTKの利便性はもちろんですが、我々が心を動かされたのは、真剣にスマート農業へ取り組む若手農家の姿です。効率化にはスマート農業という答えは若手農家がいち早く導き出しており、RTKなどを率先して導入している姿に頼もしさを覚えました。

そうした場で若手農家から要望があったのは、「筑前町が主体となってRTK基準局を導入して欲しい」という声でした。RTKの利用料を個人で負担していくことが厳しいこともありますが、何よりも町全体でスマート農業を推進し、「農業は格好いい職業」という取り組みを各方面にアピールすることで農業の活性化、そして農業人口の増加につながっていくのではないかという若手農家と我々の見解が一致。そこで、2024年夏頃から本格にRTK基準局の導入を検討することにしました。

水田農業推進協議会 事務局 和合氏

水田農業推進協議会
事務局 和合氏 


|新たなRTK基準局の設置および運用・保守を一任できる西部電気工業


●RTKの比較・検討プロセスと西部電気工業を選定した理由をお聞かせいただけますか。

最初は町の事業者十数社に声をかけ、RTK基準局を設置できるかどうかを確認しました。すると設置には実績やノウハウが必須で、専門知識を持ったベンダーを選ぶ必要があることが分かりました。その後、さまざまな伝手をたどって2社のベンダーをピックアップ。その1社が西部電気工業でした。ベンダーとして選定したのは、以下の理由からです。

<西部電気工業は新たなRTK基準局の設置を提案>
別の1社は地区内に設置済みのRTK基準局を利用する提案でした。各農家にてアカウント(有料)を設定すれば利用できるのは分かりますが、スマート農業に取り組み始めた我々としては、自分たちでRTK基準局を所有し農家が無料で利用できる環境を整備する方向で考えていたため、ベクトルの違いを感じました。これに対し、西部電気工業からは我々の意向に沿って新たにRTK基準局を設置する提案がありました。

<安心して運用・保守を任せられる>
西部電気工業はRTK基準局の設置に加え、Ntrip Casterというクラウドの中継サーバを構築し、RTK基準局と併せて運用・保守をお願いできる点に魅力を感じました。設置して終わりではなく、継続的に運用していくための体制が整っていることは、大きな安心感がありました。

水田農業推進協議会 事務局(農林商工課 農林振興係) 橋本氏

水田農業推進協議会
事務局(農林商工課 農林振興係)
橋本氏 

●導入プロセスをお聞かせいただけますか。

筑前町の農業の未来を支えていくファクターのひとつになり得るスマート農業はスピード感が重要と考え、2024年秋頃にプロジェクトを開始し、西部電気工業の協力のもと、着実に準備を進め、2025年春に本稼働を迎えることができました。
なお、RTK基準局は運用・保守の面を考慮し、役場庁舎の屋上に設置しました。


|RTK基準局の高い性能とスマート農業への意識がマッチ


●トライアルの状況や評価についてはいかがでしょうか。

すでにRTKを利用していた農家とRTKを使ってみたいと手を挙げた多くの農家の方々がトライアルに参加しました。トライアル状況に関しては、筑前町の水田農業推進協議会が開設したSNSを通じて情報共有しています。現時点では「無料で利用できる」「精度の高い自動操舵が可能」というRTKのメリットを享受できることから、良い評価がほとんどです。今後は広報誌などを通じ、積極的にRTK基準局の周知を行っていく予定です。

●スマート農業の見通しについては、どのように考えていらっしゃいますか。

スマート農業の普及という点では、ドローンよりもトラクターの方が先に進んでいくと考えています。どの農家にもトラクターは1台以上ありますから、それに自動操舵のハンドルを後付けすれば、いつでもスマート農業を導入できます。また、最新のトラクターには自動操舵が標準装備され始めていますから、買い替えなどの際はスマート農業に注目せざるを得ない状況になると考えています。

我々がRTK基準局を導入したことで、農家から「トラクターに自動操舵のハンドルをつけたい」「自動操舵の機能を持つトラクターを購入したい」という声も聞こえてきています。さらに「新たにドローンを導入したい」という声もあります。RTK基準局の高い性能、農家の方々に浸透しつつあるスマート農業の意識などを鑑みると、まずは順調な滑り出しといえると思います。

農林商工課 農林振興係 係長 今里氏

農林商工課 農林振興係
係長 今里氏


|西部電気工業の親切・丁寧な対応とスキルトランスファーに満足


●西部電気工業に対する評価をいただけますか。

西部電気工業はスピード感だけでなく、コンプライアンスに準じて進める対応が素晴らしいと感じました。また、我々にRTKや、GNSS(Global Navigation Satellite System:全地球航法衛星システム)などの専門的な知識が不足していたため、情報共有が難しい部分もあったと思いますが、一つひとつ分かりやすく丁寧に教えていただきました。何度も足を運んでもらい、我々の理解が向上したことを確認しながら進めていただいたことに感謝しています。

●スマート農業に向け、RTK基準局をどのように展開していきたいと考えていらっしゃいますか。

RTKのメリットを周知しながら、筑前町全体でスマート農業をさらに推進していくつもりです。また、自動操舵の技術は園芸にも有効ですから、園芸に特化していく傾向がある若手の新規就農者にも筑前町のスマート農業の取り組みをアピールしていきたいですね。そしてそれが、我々の想いである「農業がある町だからこそ人が増える町」につながっていければ幸いです。


|ため池周辺の草刈りや行政サービスにもRTKを展開していきたい


●スマート農業以外にもRTK基準局の利用方法は考えていらっしゃいますか。

多くの用途があると考えており、例えば、そのひとつに草刈りが挙げられます。とくにため池堤防の草刈りは重労働な割に生産性が少なく、コストもかかります。こうした草刈りにRTKを活用できれば、少ないリソースで効率的に作業を進められるのではないかと思っています。また、ため池は堤防がかなり老朽化しているため、日々の監視が必要な状況です。この監視にもRTKが有効と西部電気工業から伺っていますので、今後の提案に期待しています。

また、山間地に住む高齢の方々に対しては、手厚い行政サービスを提供したいと思っていますが、コストなどの問題で公共交通機関の提供もままなりません。そこで、商業施設で購入した商品を自宅へドローンで届けることも手段のひとつと考えています。

こうしたRTKの利活用については、西部電気工業と定期的なディスカッションを行い、我々の課題と西部電気工業の技術を合わせながら、最適解を模索していきたいと考えています。引き続きご支援のほど、よろしくお願いします。


|若手農家の方に聞いた「スマート農業への取り組みとRTK基準の実用性」


井上農園 井上氏
●生産農作物:米・麦・大豆 
●作付面積 :23ヘクタール 
●従業員  :1名

個人のRTKは苦労しましたが、筑前町のRTK基準局での苦労は一切ありません

人手不足の打開策として、RTKは有効な手段だと考えています。田植え機、トラクター、ドローンなどの活用において、RTKの正確な位置情報によって自動操舵が可能になれば、かなりの労働力軽減が期待できます。ベテランである必要もありませんから、新規就農者の従業員に任せることも可能になります。

こうしたRTKの利便性を知っていたため、私のところでは以前からRTK移動基地局を導入し、ドローンでの農薬散布に役立てていました。導入当初は各圃場ごとにRTK移動基地局を設置し修正を繰り返す苦労を経験しましたが、今回のRTK基準局ではそうした苦労はありません。しかも、ドローンは地図データ上をほぼ誤差なく飛んでおり、問題なく活用できています。

スマート農業以外でのRTK活用方法としては、個人的には防災分野が考えられると思います。RTKを使って精度の高い地図データを空撮しておけば、例えば、土砂災害があったときの被害を前後の状況を見比べて判断できると思います。ため池周辺についても定期的に撮影しておけば、ズレなどを分析して予防保全につなげられるかもしれません。

農業生産法人 有限会社やまびこ農産 焼山氏
●生産農作物:米・麦・大豆、キャベツ・トウモロコシ・子実トウモロコシ(飼料作物)・稲WCS 
●作付面積 :33ヘクタール 
●従業員  :5名

トライアルで試したRTK基準局の精度に問題はなく、4月以降の本稼働に期待

スマート農業の自動操舵は運転技術が不要になるため、新規就農者も容易に農業機械を扱うことができます。しかし、GPSだけでは誤差が大きいため、自動操舵を行うためには、RTKの補正信号が必須となります。仮にGPSで田植えを行って誤差が30cmも出てしまうと、1度植えたところを潰しかねません。

そこで、私のところでは以前から自宅にRTK移動基地局を設置し、自動操舵に利用していました。RTKなら誤差は5cm以下に収まるため、農業機械の運転に慣れていない従業員にも任せることができます。筑前町が設置したRTK基準局に関しては、トライアルで試しました。精度は今まで通り出ており、まったく問題ありません。4月以降の本稼働に期待しています。

自動操舵以外では、やはり農業用途になりますが、高低差がない小規模の田んぼの合筆に活用できるのではないかと考えています。合筆とは田んぼの境界となっている畦を撤去して2枚の田んぼを1枚つなげることです。2枚が別々の地権者の場合、畦を撤去すると元の境界が分からなくなるため、合筆が難しくなります。こうした際、RTKで正確な位置と座標を記録し、さらに杭を打つなどしておけば、地権者の方も安心して畦の撤去に同意できるのではないでしょうか。いざとなれば、RTKで測定したデータをもとに境界の復元も容易です。このように、私を含めて筑前町の農家は、RTKには大きな期待を寄せています。

RTKスマート農業-ドローン自動操舵①
RTKスマート農業-ドローン自動操舵②

農業生産法人 有限会社やまびこ農産 焼山氏 井上農園 井上氏

(左から)
農業生産法人 有限会社やまびこ農産 焼山氏、 井上農園 井上氏


お忙しい中、貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました。


取材日時 2025年3月 
福岡県筑前町
https://www.town.chikuzen.fukuoka.jp/
* 記載の所属、役職名等は、2025年3月時点のものを記載しています。